グループ経営の経営スタイルが業績と企業価値に与える影響

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M&Aが盛んな昨今、複数の企業がグループとして経営を行うケースが増えています。業績や企業価値の高まるグループ経営の考察についてお伝えします。

目次

今後の日本において必要となるグループ経営の経営技術

近年の日本では、グループとして経営を行う企業が増えていると思われる。経済産業省(2012~2022)が発表した「企業活動基本調査(確報)」によると、持ち株会社はリーマンショック時に比べて毎年増加している。1997年の持株会社解禁を機に純粋持株会社も大きく増えており(リーマンショック時の約2.5倍)、新規事業への取り組みやM&Aによる事業ポートフォリオの最適化など、子会社や関連会社を含めた企業グループとして経営を行う企業が増えていることが伺える。

しかし、これら新規事業へ取り組みやM&Aによるグループ化について成果がでていることは十分に確認されていない。

複数の企業による経営は、1970年代から様々な研究がなされてきた。事実、企業規模が一定規模以上になれば、経営リソースの活用として複数の事業を手がけることは半ば必然であり、以前は自社内において、あるいは、本業の周辺分野において多角化を進めるのが多角化スタイルであった。

そのような中、日本における経営環境は成熟し、事業承継における担い手が不足するという環境の中で、国を挙げてのM&Aが進んでいる。他社を買収することで手早く新規事業を手に入れたり、本業から離れた成長分野の事業を手に入れることもできるようになった。このような環境における経営がグループ経営であり、まさに、今後の日本において必要な経営技術であると言える。

グループ経営とは、グループとしての理念やミッション、ビジョンの実現に向けて、グループに属する企業が持てる価値を発揮し、企業グループとして持続的に成長を果たす経営スタイルである。経営スタイルの切り口は様々あるが、今回はグループとしての経営理念とガバナンスが業績や企業価値に与える影響について検討したい。

経営理念とガバナンスの影響分析

グループ経営の4つの経営スタイル

グループ経営という切り口で、経営理念やガバナンスが業績や企業価値に与える影響を示す文献は少ない。そこで、社員という集団に対する動機づけ機能を持つ経営理念が業績に与える影響にいて研究である「経営理念の内容と業績との関係についての考察」(楢崎、2010)と、ガバナンスがグループ経営の意思決定に与える影響を研究した「グループという企業集団への企業のガバナンス構造が経営戦略の変更に与える影響」(青木、2014)を参考にし、動機付け機能であるグループ経営理念(ソフト面でのグループ統制機能)と、持株会社の役員構成や株主構成といったグループガバナンス(ハード面でのグループ統制機能)の強弱により、企業の業績にどう違いが生まれるかを検討した。

 経営理念は企業に対して動機付けをする役割を持ち、戦略の方向を動機付けするタイプ(戦略系)と、人や組織の価値観を動機づけするタイプ(組織系)の2つがある。この2つタイプで業績や企業価値がどうかわるかを1つの軸とした。また、グループ統制力はグループ本社の取締役の構成や外国人・機関投資家の出資比率といった意思決定への影響力を表す。この統制力の強弱で、業績や企業価値がどうかわるかをもう1つの軸とした。これら2つの軸の関係から企業を4つのタイプに分類した。タイプⅠはグループ全体が戦略面・統制面で一体となった「戦略一体型(戦略系・統制強い)」、タイプⅡは戦略は一緒ながら、実行推進は各社の自由度を認める「ビジョン追求型(戦略系・統制弱い)」、タイプⅢは親会社の機能子会社(製造子会社や物流子会社など)である「機能一体型(組織系・統制強い)」、タイプⅣは戦略もガバナンスも過度に効かせない「放任型(組織系・統制弱い)」、この4つのグループ経営の経営スタイルにいて検証を行う。

経営理念とガバナンスの強弱による分類

戦略一体型(戦略系理念、強い統制力)の経営スタイルが
業績と企業価値を高める

分析は、データ入手の容易性とデータ分析の確実性の観点から、過去10年以上のデータ分析ができで(設立後10年以上経過)、かつ、株式市場へ上場している「純粋持株会社 」について分析を行った。純粋持株会社である上場企業は541社(2023年6月25日現在)あり、過去10年間のデータが取れる純粋持株会社は122社あった。そのうちの金融機関(銀行、証券会社、保険会社)22社を除いた100社を分析対象とした。

これらの企業に対して、楢崎(2010)、青木(2014)の先行研究を参考にグループ経営の経営スタイルを分類すると、タイプⅠ(戦略一体型)40社、タイプⅡ(ビジョン追求型)30社、タイプⅢ(機能一体型)11社、タイプⅣ(放任型)19社となった。

さらに、これの分類ごとに、各社の過去10年間における業績の変動率を比べることとした。業績を本業の収益性を表す「ROS(営業利益率)の改善率」とし、企業価値を「株主価値(時価総額)」の成長率の2つとして、グループ経営のタイプ別に平均値を産出した。

グループ経営のスタイルと営業利益率・成長率の関係

グループ経営を行う企業は、今一度、経営理念とガバナンスを見直すべき

これらの分析をまとめると、マトリクスの縦軸である経営理念においては、事業範囲・方向性を明示する戦略系理念であることが重要であった。近年では経営理念のまとめ方も企業により様々であり、中期経営計画の公表において事業範囲・方向性を明確にすることもあるため、これらも含めた上で戦略性ある組織への動機づけが重要であると考えられる。また、業績や株主価値のいずれにおいては、適切なガバナンスが必要であることがわかった。上場企業である以上、コーポレートガバナンスコードに従って、一定水準以上のガバナンスを具備しているのは当然のこととして、今回の分析から特に取締役会の構成(知識、経験のバランスや多様性など)が重要であると思われた。以上がまとめである。

なお、これらは上場企業における分析であるが、中堅・中小企業においても同様の傾向があると考えられる。経営理念はミッション、ビジョン、中期経営計画まで含めて、戦略性ある組織への動機付けが必要であり、ガバナンスにおいては、自社の事業規模に必要とされるガバナンス(組織、経営体制含む)の整備が欠かせない。

グループ経営を実践されている企業は、今一度、自社の経営理念とガバナンスを見直してみてはいかがだろうか。

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