「みなし残業(固定残業)」の導入による社員・組織の活性化
残業問題を始め、労務管理において曖昧さが許されなくなってきました。
みなし労働時間制適応もハードルが高く、導入はかなり少ない現状です(下記参照)
そうした中でみなし残業(固定残業)は、設定時間超過分は残業代を支払います
よって働く方には不利益はありません。
一般には固定残業の支払いは経営サイドで単なるコストアップと考えられます。
しかし、みなし残業を導入することで社員・組織の活性化が可能な方法があります。
この考え方を以下に順を追ってご説明します。
平成21年就労条件総合調査結果:厚生労働省より
1.労働政策は、弱者である労働者保護が基本
(1)人が集まるところに組織が生まれ、集団に対し指導者が生まれる
太古の時代から、指導者を得て集団としての生存競争が繰り返されてきました。蟻は「女王蟻と働き蟻」に役割を分けて、群生として生存競争しています。そこでは、「働き蟻」が「女王蟻」に差別だとか不公平だとは考えません。
しかし、人間社会では平等を実現するべく、弱者を守る政策が取られてきました。雇用者は組織においては、給与決定権がなく使用される弱者となります。
(2)身分制度や奴隷制度などが存在してきた歴史的事実
明らかに人権無視による人からの搾取でありました。戦後の日本でも貧しい農村出身者が一日13時間ほど働かされています。ホテルだけでなく、一般の会社でも支配人とした肩書は多くあります。
使用人「支配人は番頭手代其他の使用人を選任または解雇することを得」(商法明治32年)
現代の感覚として「使用人」というニュアンスは違和感があります。単純なイメージは「支配人に使用されている人」となります。こうした歴史の中で、使用人の権利・待遇改善が進んできました。
(3)指導者(経営者)から見る労働者はコストでもあるという視点
収益を得るためには、労働者をより安く・長く働かせる動機が生まれます。組織の管理者は目先の利益を優先することが多くあります。また、過去の歴史(通念)によって労働者と上下関係が生まれやすくなります。
そこで法によって労働者保護を図ってきたと考えられます。
自由放任は、一部で人権を無視し利益拡大に走るリスクがあるからです。
弱者である労働者の保護視点での管理体制
2.労働時間と報酬の関係
1.労働者保護視点で個々の労働時間を正確に把握する必要性
労働者を守ために、労働時間の削減が進んできました。
(勿論、そこには技術発展による生産性の向上を伴っています)
「労働時時間の把握、残業時間の上限設定・割り増し率増加、休日増し」等々
一日の残業30分単位として端数を切り捨てることは許されません。まずは労働時間の把握の正確性が問われます。
労働時間の正確な把握がスタート点
2.労働時間による報酬決定
原則として勤務に拘束している時間は報酬を支払います。限られた人生の時間の一部を提供して貰っている代償です。正確に労働時間を把握し、労働時間通りに報酬を支払う事がルールです。
自己申告制度などでは正確性がなく、上司が書き換えることができます。過労死含めた社員の健康管理が先にあります。更に賃金カットとの意図が入り込まないように管理する必要があります。労働時間の把握と報酬の一致
3.時間と成果が一致しない仕事への対応
仕事が多様化し創造的な仕事が増えてきました。その成果、(生産性)と労働時間が一致しなくなってきています。造現場のように同じ仕事をするならば時間での報酬に不公平感はありません。
しかし、社会が分化・高度化して、時間で評価できない仕事が増えてきています。「成果と報酬」を一致させるには「時間と報酬」の一致に矛盾が生じます。そこで、みなし労働時間制度などが生まれてきています。
「時間=報酬」⇔「成果=報酬」への対応
3.みなし残業(固定残業)の目的は、残業カットではない
1.管理監督者の認定ハードルは高い(役職ではない)
「管理監督者」には残業代を支払わないのも時間と成果の違いからです。
ただし、管理監督者の認定ハードルは高くなります。
単純に「役職を付ければ残業なし」とだけの基準だったらどうでしょうか。どんどん役職をつけて、自由に残業をカットできてしまいます。自らの裁量で行動できる立場の前提があって、労働時間管理から除外できます。また、残業を付けない代わりに、相応しい高額な報酬を支払わねばなしません。
「課長になったら残業が付かないので総報酬額が減った」状態では問題あり
2.みなし労働時間制の適応ハードルも高い。
外回りの営業はどこまでが仕事が把握できない前提がありました。そこで、みなし労働時間制が適応できました。
しかし、携帯電話などの普及で指示や報告は受けられる環境となっています。よって管理下における労働時間として、残業代を支払う必要が生まれます。裁量労働制の適用も簡単ではないことより導入は少ないのが現状です。
会社に都合の良いように残業代を削減出来る制度はありません。
3.みなし時間超過分の労働には残業代を支払う
一般には「みなし残業」とは固定残業制度のこととなります。この場合は設定時間を超過した分は残業代を支払わなければなりません。
下記のグラフは、縦軸に「時間相当の残業代」・横軸に「実際の残業時間」とし、みなし残業時間を20時間と設定したイメージです。
みなし対象者も普通に残業代を支払う者も、20時間を超えれば同じ残業代ですみなし対象者は20時間を下回った時には20時間の残業代が支払わられます。それならば固定残業に意味はなく、普通に残業を支払えばよいだけと思われます。
しかし、みなし残業を前向きに活用する方法も取ることが出来ます。
みなし案業(固定残業)を経営に
活かす対策の検討。
4.みなし制度の経営に活かす方法
1.残業を減らすモチベーションとして活用
みなし時間を20時間すれば、実際の残業時間が10時間でも収入は減りません。(20時間分のみなし手当が固定支給)
そうなれば、集中して早く仕事を終えようとなります。
20時間相当の仕事を残業時間10時間で終えても、成果は同じです。
ゆっくり仕事をした方が、給与が増えることが矛盾しています。10時間分の間接費も下がり、職場に早く仕事を終えようとの風土が生まれます。
事務業務の5%生産性改善は、簡単にできると考えています。
一日の業務時間を8時間とすれば、その5%は24分でしかありません。24分ぐらいは怠惰で無駄な時間があり、意識すれば改善できるはずです。仕事を早く終えることへのメリットとしての活用
2.みなし時間を残業の上限として管理
自己管理で仕事を行う担当者に、残業した分を支払ってはおかしくなります。遅くまで残業すれば、その分残業代が貰えるならば自分で仕事量を調整します。
みなし対象者は、仕事量を自己管理できる対象者です。時間ではなく能力と、その能力発揮による成果で給与を決めるべきです。みなし時間が残業の上限であるとの意識付けと管理を行うことになります。あくまでも、みなし設定時間内に仕事を終えることを目指した管理です。それ以上は持ち帰る事や、サービス残業とさせるのではありません。
また、個人へ仕事が集中しているかの調整は前提として常にみなし時間を超える残業を行う者は能力が低いとの評価も出来ます。
3.昇級インセンティブとしてのみなし時間の増加
社員等級等を上げる際、みなし時間の増加で対応することも出来ます。より能力が上がったのならば、20時間から30時間へとみなし対象時間(仕事量)を増やし、固定残業代として10時間分の手当てを増加します。
会社側は残業が増えても超過残業代は30時間まで不要となります。社員側は能力向上で仕事を早く処理すれば、10時間分は単純収入増となります。昇級時にみなし手当(時間)の増加で対応することも考えられます。
5.みなし制度は給与体系の一部であり、全体のバランスが優先する
今回の内容は、個人的なひとつの見解です。
経営視点で給与体系を見直す際に「みなし」についての検討提案です。
しかし、みなし制度は給与体系の一部です。経営の思想から始まり、給与体系全体での検討の中で行うものです。
最後に筆者の経験において注意すべき問題点を列挙しておきます。
- 現在の給与にすでにみなし手当が含まれているかの確認。
管理監督者や「みなし労働時間制」を採用し、その時間を超えても残業代を支払わないとしていた場合に、そのチェックと再検討が必要です。形式を満たしてなく残業代を支払ってない場合が問題となります。 - また基本月額を抑えるために、沢山の手当て項目が付いている場合。手当の本来の活用が出来ているか確認が必要です。手当は明確な基準があり、条件を満たさなくなれば外す運用が必要です。みなし残業だけを検討しても全体のバランスが崩れます。
- みなし対象と実残業対象との明確な職種分け。
指示命令下で、チーム等で仕事を行なうなら実際の残業代を支払うべきです。
まずは、社内で仕事内容に合わせた職種そのものが整理されているかです。それがすべての給与体系の土台となります。 - 昇給の基準や評価制度全体の完成度。
- 人事面談などのコミュニケーション。
- 労働時間(残業)の管理手段。
などです。
一度に完全なホワイト企業となるのは難しくとも、リスクの高い順での対応です。一部からでも改善着手と実行により、社員の納得度を高めていかねばなりません。
SNSの発展により、無策であることで企業のリスクが増大しています。
是非、この際にご検討ください。
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