事業を考え推進できる幹部人材育成方法――「知識を力に、変革を未来に」。“稼げる右腕”を社内で育てる実装のヒント――

事業を考え推進できる幹部人材育成方法――「知識を力に、変革を未来に」。“稼げる右腕”を社内で育てる実装のヒント――
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経営者の孤独と「右腕不在」: 任せたいのに任せられない、を卒業する

中小企業の経営現場では、社長が営業・採用・資金繰り・現場判断まで抱え込み、「任せたいのに任せられない」状態が慢性化しがちです。人手不足の時代、「現場を回せる人」はいても、次の一手を描き、周囲を巻き込み、実行まで落とし込める“中核人材”が不足している企業は少なくありません。

中小企業白書(2024年版)でも、中核人材について「不足」と回答した企業が7割を超え、業務人材より不足感が大きいことが示されています。

つまり、今の課題は「人数」だけでなく、「事業を前へ進める人が足りない」ことです。幹部育成は“人事施策”ではなく、社長の時間と意思決定を増やし、会社の未来利益をつくるための“経営の中核プロジェクト”だと言えます。

経営者の現状と理想の対比

外部研修だけでは育ちにくい理由: 幹部育成は「適応課題」である

リーダーシップやコミュニケーションなど普遍的な“型”を学ぶ外部研修は有効です。一方で、事業づくり・戦略実行は各社の顧客・競争・資源によって最適解が変わる「固有の課題」です。

中小企業白書(2024年版) に掲載される伴走支援の考え方では、既存の知識で解ける「技術的問題」と、当事者自身が問題の一部であり対話を通じて解決策を探る「適応課題」を区別し、後者には捉え方や習慣の変化が必要だと整理しています。

幹部育成はまさに適応課題です。知識を“入れる”だけでは動きは変わりません。現場での実践と、意思決定の振り返りを繰り返し、判断基準・巻き込み方・行動習慣を変える「伴走型の設計」が必要になります。

育成の軸は「戦略・戦術・戦闘」の三層構造: 同じ言葉で育てる

幹部育成でつまずく原因の一つは、「何ができれば幹部なのか」が曖昧なことです。そこで役割を三層に分け、社内の共通言語にします。

①戦略(どこで、何で勝つか): 経営者の目線

ターゲット市場・顧客価値・勝ち筋・投資優先順位を決める力。たとえば「EV化で受注が減るなら、どこへ事業を広げるか」「誰の困りごとを、何で解決するか」を言語化し、意思決定につなげます。

②戦術(どう実装して成果に変えるか): 管理職の目線

KPI設計、体制・役割分担、業務プロセス整備、採算設計。戦略を“回る仕組み”に落とし、再現性を持たせます。

③戦闘(今日の現場を勝ち切る): 実行者の目線

品質・納期・顧客対応・現場改善。日々の積み上げで信用をつくり、改善で余力を生み出します。

ポイントは二つです。

  • 戦略のミスは戦術や戦闘で取り返せない。
  • 一方で、戦略は戦術・戦闘の土台がないと絵に終わる。

この“往復運動”を幹部候補に腹落ちさせると、育成は「期待」ではなく「設計」に変わります。

「戦略・戦術・戦闘」の三層構造図

幹部候補に渡す「経営の問い」: 考える力を、型にする

右腕が育つ企業は、幹部候補に「考える枠」を渡しています。以下の問いを、会議・報告・提案の共通フォーマットとして使うだけで、思考の質が揃います。

  1. 顧客は誰か(誰の、どんな痛みを解くのか)
  2. 提供価値は何か (競合ではなく“自社が選ばれる理由”は何か)
  3. 勝ち筋は何か (強み・差別化・提供方法は何か)
  4. 儲けの構造は何か (粗利・回収・キャッシュの動きはどうなるか)
  5. やめることは何か (集中のために、何を捨てるか)

「良いアイデア」ではなく、「意思決定できる提案」へ変換するための質問です。
特に4の“キャッシュ”は重要です。新規事業は利益より先にキャッシュを消費します。右腕には「投資額・回収期間・最悪ケースの撤退線」を言語化させ、会社を守りながら挑戦できる状態をつくります。

育成を“仕組み”にする3ステップ: 右腕を育てる実装法

中小企業白書(2024年版)は、人材課題の解決には「経営戦略と人材戦略を一体的に推進すること」が重要であり、人材戦略の検討を3ステップで整理し、支援機関が伴走する想定であることを示しています。

この考え方を、社内の幹部育成に落とし込みます。

Step1: 役割と成果責任を固定する(“右腕”の定義づけ)

「幹部候補だから期待する」では育ちません。成果を、期限と数字の粒度まで落とし込みます。
例)既存事業:粗利率を○%改善/主要顧客の継続率を○%向上

例)新規事業:3か月で仮説検証→6か月で月商○円の見込み (受注・継続・紹介など) ここで大切なのは、権限を渡す前に「判断基準(何を優先するか)」を共有することです。判断基準が揃うほど、任せやすくなります。

Step2: 戦術と戦闘の“接続点”を任せる (小さなP/Lを持たせる)

いきなり「戦略を考えよ」と言っても動けません。まずは戦術 (仕組み)と戦闘(現場)をつなぐ仕事を任せます。

たとえば、現場改善で1日5% (24分程度)の余力を生み、その余力を「新規顧客開拓のテスト」「新サービスの試作」 「DXによる業務短縮」など、未来の粗利につながる活動へ再投資する。効率化を“目的”にせず、「余力を何に使うと未来の粗利が増えるか」まで考えさせます。

この段階で、幹部候補は“現場を回す人”から“資源を捻出し、未来へ配分する人”へ変わり始めます。

Step3: 意思決定の場数を増やし、伴走で“戦略”へ引き上げる

幹部育成は適応課題です。白書で紹介される「プロセス・コンサルテーション (答えではなくプロセスを支援する)」の考え方を踏まえ、次の3点をセットにします。

  • 月1回:経営会議同席(市場・顧客・資金の観点を学ぶ)
  • 週1回:意思決定レビュー (判断根拠・伝え方・巻き込みの振り返り)
  • 事前合意:失敗の許容範囲 (コスト・期間・品質)=“撤退線”

挑戦を促しつつ、会社としての安全性を担保する設計です。正解を教えるのではなく、問いを返し、腹落ちさせ、次の行動へつなげる。これが伴走型育成の要諦です。

育成を阻む 「5つの壁」を越える: 失敗しない設計ポイント

育成が途中で止まる背景には、本人の意欲だけではなく、構造的な“壁”があります。中小企業白書(2024年版)の伴走支援ガイドラインでも、変革を阻む壁として「知識・スキルの不足」「問題解決力の不足」「他者との関係性」「問題認識」 「時間」の5つを挙げています。幹部育成に当てはめると、次のように処方箋が見えてきます。

  • 知識・スキル: 外部研修や事例学習で“型”を入れる(ただし単発で終わらせない)
  • 問題解決力: 小さなP/Lで「仮説→実行→検証」を回す
  • 他者との関係性: 巻き込みの設計(関係者マップ、合意形成の順番)を教える
  • 問題認識: 社長が見ているダッシュボード (粗利、回収、重要顧客、品質)を共有する
  • 時間: 現場改善で余力を捻出し、“考える時間”を会社として確保する

「本人の能力不足」と片づけるのではなく、壁に応じて手当てをする。これが伴走型育成の実務です。

育成を阻む「5つの壁」のハードル

90日→180日→1年:右腕化のロードマップ (目安)

最後に、社内で運用しやすい“時間軸”の例を示します。

0~90日:戦闘の改善で余力を作る

  • 現場のムダを削り、月○時間の余力を確保
  • 改善テーマを一つ完遂し、「やり切る」経験を積む

91~180日:戦術で仕組み化し、小さなP/Lを動かす

  • KPIを週次で回し、粗利・工数・品質のどれかで成果を出す
  • 関係者を巻き込んで、会議・報告・意思決定を“型化”する

181日~1年: 戦略の問いに答え、投資判断を担う

  • 新規事業/新商品/新チャネルの仮説を立て、検証計画を提示
  • 投資額・回収・撤退線を示し、経営会議で判断材料を出せる状態へ

このロードマップは「完璧にやる」ためではなく、「成長を見える化して継続する」ための道しるべです。

人材タイプ別: 伸ばすポイントを変えると育成は速くなる

同じ育成でも、候補者のタイプで“伸びしろ”は違います。よくある2タイプの対応例を紹介します。

A:現場力は高いが視座が低いタイプ(“頼れる現場番”)

強み:実行スピード、現場の信頼、改善の勘所。
課題:現場の事実が「戦略の言葉」に翻訳されず、提案が局所最適に留まりやすい。
対応:市場・競合の情報を持たせ、「現場の事実→顧客価値→打ち手→数字」の順で報告させます。
例) 新店候補地の調査なら、感想ではなく、競合比較/客層変化/勝ち筋仮説/投資回収の見立てまでセットで提出。
狙い: 現場の強みを活かしながら、判断の座標軸を“会社全体”へ引き上げる。

B: 経営志向はあるが実行力が弱いタイプ(“頭でっかち”)

強み:構想力、情報収集、分析への抵抗感が少ない。
課題:段取り・調整・徹底が弱く、現場が動かず成果につながりにくい。
対応:予算と期限を区切った「小さなP/L」を持たせ、現場のキーパーソンを巻き込む体験を積ませます。
例)3か月で「1つの業務プロセスを変え、月○時間の削減と品質指標の改善を出す」。
狙い:「完璧な計画」 より 「動かして学ぶ」 習慣を先に作り、戦術・戦闘の筋力を鍛える。

2つの人材タイプ比較

DX時代の右腕: デジタルは目的ではなく、価値と業務の再設計の手段

中小企業白書(2024年版)は、外部環境の変化と人手不足の深刻化の中で、DXの重要性が増していると指摘しています。しかし同時に、企業のDX推進状況を見ると、ステージ1~2 (取り組みを始めた段階)が約66%を占め、最も進んだステージ4は1桁に留まっています。

この現実を踏まえると、右腕に求められるのは「ツール導入の議論」ではなく、「価値と業務の再設計」です。

例)受発注・見積・問い合わせ対応のムダを棚卸しし、どの工程をデジタル化すれば“粗利を増やす余力”が生まれるかを設計する。DXを 「ITの話」ではなく「事業と現場の話」置き換えられる幹部が、変革を前へ進めます。

育成の成果を見える化する: 四半期で回すチェックポイント

幹部育成が続かない理由は、忙しさよりも「成長が見えないこと」です。そこで四半期ごとに、三層それぞれの成果を簡易に確認します。

戦略:仮説の質と意思決定

  • 提案が「誰に/何を/なぜ/いくらで/撤退線は」で説明できるか
  • 意思決定のスピードが上がったか (決める会議が増えたか)

戦術:仕組み化と採算

  • KPIが回っているか(週次で数字が動くか)
  • “小さなP/L”で粗利改善、工数削減、回収見立てが作れているか

戦闘:現場の実行と改善

  • 現場が動いたか(関係者を巻き込めたか)
  • 改善が継続し、余力が生まれたか (余力の再投資ができたか)

数値は立派である必要はありません。「判断が増えた」 「巻き込みが増えた」「余力が増えた」の3つが増えるほど、右腕化は進んでいます。

よくある失敗と処方箋: 育成が「名ばかり」にならないために

最後に、現場で起きがちな失敗例を3つだけ挙げます。

失敗①:権限だけ渡して、判断基準を渡していない対策:優先順位(粗利/顧客/品質/スピード等)と撤退線を先に合意する。迷ったら基準に戻れる状態をつくる。

失敗②:研修で満足し、現場の実装がない対策:「学んだ内容を、どの業務で試すか」を必ず決める。次週の会議で“試した結果”を報告させる(成功でも失敗でも可)。

失敗③:結果だけ詰め、プロセスを見ない対策: 社長は答えを教えるより、次の4つの問いで“考え方”を育てる。
(a) その判断の根拠は何か (データ/現場の事実/顧客の声)
(b) 代替案は何か(他の選択肢を3つ)
(c) 最悪ケースは何か (損失の上限と撤退線) (d) 次に学ぶべきことは何か (次の一手)

幹部育成は「正解を言える人」を増やすのではなく、「判断できる人」を増やす取り組みです。問い返しの習慣が、右腕を加速させます。

まとめ: 右腕育成は“意思決定人材”づくりである

幹部育成で増やしたいのは、肩書の人ではなく、「情報を集め、判断し、推進し、結果に責任を持つ人」です。

  • 三層(戦略・戦術・戦闘)で役割を言語化し、鍛える場所を明確にする
  • 小さなP/Lで実装の経験を積ませ、余力を戦略課題へ再配分させる
  • 適応課題として伴走し、意思決定の振り返りで自走力を育てる

この順番で回り始めると、社長が一人で背負わずに済み、会社は強く、速く、しなやかに変われます。知識を力に、変革を未来に――右腕育成は、その最短ルートの一つです。

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